2013年12月25日

突撃★ブリーダー訪問 中村正則氏 飼育場


平成25年10月14日


大阪在住のとあるお方の飼育設備が凄すぎるとの話を聞きつけ、得意の押しかけ訪問を決行。今回は、らんちゅうの酸いも甘いも味わい尽くした、飼育歴30年の大ベテランブリーダー中村正則氏の飼育場訪問記です。

1.jpg

入口の横には癒しの空間。植木の配置もお洒落でインテリア性抜群、落ち着いた雰囲気が漂う飼育場である。

2.jpg

ご自宅からほんの少し離れている築13年のこの飼育場、まず一言、とても綺麗である。ホースやアミなど飼育器具の収納のことまで考えて池を設計されたそうだ。

3.jpg

プロ顔負けのこの設計図は、中村氏ご自身がパソコンで作ったもの。
隅々まで精密に設計されており、飼育上の所々に中村氏のこだわりを見つけることができる。

4.jpg

コンセントはコンクリートに埋め込まれ、池の側面各所に設置されている。
散らばったコードに足が絡まる心配もなく、通路はとても歩きやすい。

5.jpg

エアー分岐パイプもコンクリートに埋め込まれている。漏電等でエアーが止まることもない。外観もスッキリしていて爽快、すばらしい設計である。



6.jpg

遮光ネットは一番遮光率が高いものを使用しているそうだ。池の上部に設置したのも中村氏ご自身なのだそう。お見事です。

中村氏が魚を起こすのは3月の中旬頃。ヒーターを使わず割水で水換えをしながら起こすそうだ。3月にもなれば気温も徐々に上がってくるため、魚の体に負担をかけず自然体で起こすことができるのだと中村氏は言う。

雄種も雌種も同時に起こすが、4月に入ると雄魚にはヒーターを入れ水温を18度に保つ。起こすのが遅い分仔引きも遅めで、4月から5月の末くらいまで卵を採るそうだ。この時期の仔引きでも大きさは十分間に合うとのこと。自分の魚を熟知し且つ中村氏の腕があってこその、遅めの仔引きなのだろう。

7.jpg

人工授精で採卵し、採れた卵は小さなプラ舟に入れて孵化を待つ。孵化1週間後の初めての水換えの際に、プラ舟からたたき池に移動させるそうだ。

「魚が小さい時期は水深を浅くして飼育したほうがいいとよく耳にしますが、自分はあまり気にしていません。魚が小さい頃からずっと、たたき池に水を満タンに張って飼育しています。孵化1週間後の水換えでたたき池に稚魚を移すときも、たたきの水は満タンですよ。池の水は水道水です、水換えの都度にハイポで中和して使っています。」

8.jpg

中村氏は孵化の前日に、ミジンコを舟に投入するそうだ。ヒーターで加温されているプラ舟の中にミジンコを投入すると、親ミジンコから小さなミジンコが次々に生まれ爆発的に増殖していく。

生まれてくるミジンコは孵化した稚魚たちも食べられるくらいの小さなサイズなので、口が完成した稚魚からどんどん食べ始まるそうだ。もちろんシュリンプも与えるが、シュリンプを投入するのは孵化2日後くらいから。

9.jpg

仕事の忙しい中村氏が赤虫を与えられるのは1日のうち朝の1回のみ。朝1回の赤虫の他は、粒餌をフードタイマーで2時間ごとに計6回落とすそうだ。与えている粒餌はおとひめや咲ひかりの鯉用など。

10.jpg

中村氏の選別ではいいものを拾っていくのだそう。長年の経験による正確な選別眼で、魚が小さい時からできるだけ数を減らし少数精鋭で魚を作っていく。

第一選別では尾の開きをよく見るようにしている。サシやつまみはもちろんだが、人によっては残す芯太や芯が黒いものも迷わず捨てる。

11.jpg

らんちゅうの状態や餌やりの状況は毎日日誌につけているそうだ。
感覚ではなく、記録に残すこと。この地道な作業が良い魚を作る近道だ。


取材の前日は、第58回錦蘭会の秋季品評大会。
中村氏の魚は、親魚部門で立行司(3席)に入賞した。

12.jpg

13.jpg

14.jpg

筋肉質の太い魚体で存在感抜群の良魚だった。
その親魚が前日まで泳いでいた池がここだ。

15.jpg

大きく広々としたたたき池。ここに泳いでいるのはすべて2歳親魚なのだそう。
なんとこの池、横幅は1300、奥行は2mもあるのだ。

その池の中に見つけた一際頭が出ている魚。
「今年で9歳なんです」
中村氏はそう言いながら、魚を洗面器に上げてくれた。

16.jpg

餌を食わせて作っていく”らんちゅう”は、長寿を全うできる個体が非常に少ない。
明日の餌も保証されない野生のフナから改良されてきた「らんちゅう」。
この生き物に対して、ブリーダー達の飼育方法では明らかに餌が多すぎるのだ。
充分過ぎる餌料の代償は、協会系らんちゅうの”短命”にも繋がっているだろう。

17.jpg

協会系らんちゅうで9歳魚、この魚は今年の春も種雄として使われたとのこと。
種だからこそ、現在はそこまで多量の餌を与えているわけではないだろうが、当歳時はやはり食わせて内蔵に負担をかけながら作った魚。

大きな池の中でストレスフリーで暮らしているから、元気に長生きできているということなのだろうか。

18.jpg

肉流の発達によりもう両目は隠れてしまっていたが、この9歳魚はたたき池の中を何不自由なく泳いでいた。もちろん若い魚たちのようにハキハキとはいかず、その泳ぎにはどうしても老いが出てしまう。

だが、壁との距離感を体で覚えているようで、壁に激突する間際、いとも簡単に方向転換するのだ。他の若魚「2歳3歳魚」たちとは一味違う、落ち着いた「親魚」の泳ぎを我々に魅せてくれた。

19.jpg

「1度当たるとその年から3年は当たりが続きますよね。同じ親を種に使えますからね。その年当たり腹だったのに、血が濃くなり過ぎるからと無理やり種を導入する人もいますが、無理に種を入れるのはあまり良くないと思います。欲かいたらあかんのですわ。」

幾度も当たりを経験しているからこその、重みのある言葉。
がむしゃらに種を導入しても何も得られない。たとえそれで当たったとしても、次に続く可能性は限りなく低い。自分の系統、自分の魚をよく理解した上で種を考える。

『当たり前のことのようで、意外と見落としがちなこと。』
その当たり前のことを、中村氏のような熟練のブリーダーほど気にかけている。

らんちゅうはセンスだと言われるが、経験によって得る知識もらんちゅう作りには必要だと思う。長年らんちゅうを見ているからこそわかる「らんちゅう」という生き物の難しさ。それを知っていると知らないとでは、できる作品は確実に違ってくるのだ。

20.jpg

初対面の取材班にも懇親丁寧にらんちゅうのいろはを伝授してくれた中村氏。
今後を担う若手のブリーダー達には、彼の知識をもっと吸収していただきたいものである。


【中村正則氏 池&プロフィール】

飼育池
1000×1000:3面(トリートメント用たたき)
1500×1500:10面(当歳用たたき)
1300×1800:4面(FRP)
1300×2000:4面(2歳親たたき)
その他プラ舟が10枚以上

近所の人がらんちゅうを飼育しているのを見てその存在を知り、奈良の大和郡山で初めてらんちゅうを購入、飼育を開始する。かの有名な西滝師匠の下らんちゅうのサイズアップや作り方、はたまた病気の治し方など、らんちゅういろはを学ぶ。目標はもちろん日本一、誰が見ても5を出す魚を作ること。




posted by 西日本/社団法人日本らんちう協会 at 00:10| Comment(0) | ブリーダー訪問
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]